社労士/社会保険労務士鈴木労務経営事務所(東京都新宿区)

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平成15年5月の雇用保険法改正について

■改正の概要

平成15年5月の雇用保険法改正により、高年齢雇用継続給付の支給率が変更されました(悪く改正されました)。

この改正により、従来まで、60歳時点の給与額と比較して15%以上賃金が低下した従業員に対して最大25%支給されていたものが、60歳時点の給与額と比較して25%以上賃金が低下した従業員に対して最大15%しか支給されないものとなりました(15と25が入れ替わりました)。

従来までの高齢者賃金設計において、“逆転現象”を実現させるための肝の部分であった高年齢雇用継続給付の支給率低下は、賃金設計に与える影響は非常に大きいものとなっています(事実上、逆転現象がおこる可能性は完全になくなりました)。

さらに悪いニュースとして、60歳時賃金日額の特例が廃止されました(60歳時賃金日額の特例とは、60歳以降に失業した時の失業手当は、60歳時点の給与と離職時点の給与のいずれか高いほうの額を基準に支給するというものです。従来はこの特例のおかげで、60歳以降に賃金をいくら下げても、定年退職時にもらう失業手当には全く影響がありませんでした)。

このことは、高齢者の賃金に頭を悩める経営者にとっても、弊事務所の経営にとっても(笑)、非常に残念な改正であるといわざるを得ません。

■改正の注意点

改悪だらけの今回の改正ですが、注意が必要な点が2つあります。

[1] 一つ目は、今回の改正は、あくまで平成15年5月1日以降に60歳に達した方についてのみが対象ということです。

平成15年5月1日以前に既に60歳に到達して高年齢雇用継続給付の受給権を得ていた方については、(それまでに実際に高年齢雇用継続給付を受給していなくとも)改正前の支給率が65歳まで保障されることが決定しています。

また、同様に、60歳時賃金日額の特例についても、平成15年5月1日以前に既に60歳に到達していた方については、従来通り、離職時点と60歳時点のいずれか高いほうの金額をもとに失業保険が計算されます。

これにより、すでに賃金設計をして賃金を下げている従業員に対する給付が突然少なくなるという心配は必要なくなりました。さらに、今後、平成15年5月1日時点ですでに60歳を経過している方の賃金設計をする場合も、従来と何ら変わりない賃金設計が可能なことが保障されました。
 
このことは、今回の改正の盲点となりがちですが、見逃せない点です。

[2] 二つ目は、今回の改正により、今後60歳に到達する従業員に対して賃金設計をする意味が無くなるというわけでは決してないことです。

従来のように、再雇用後、60歳時点よりも手取額合計が増えるということはありませんが、依然として高齢者の賃金を決定する際には雇用保険と厚生年金の給付を考慮する必要があります。

※上記で「逆転現象はなくなった」と書いたのは、あくまで「60歳時点の賃金よりも低下したにもかかわらず、60歳時点よりも手取額合計が増えることがない」という意味です。

<参考>
下のグラフは、改正前の支給率が適用される方について、賃金額を変化させた場合の手取額シミュレーションのサンプルです(とある中小企業の従業員さんの実際のデータです)。

一番左が60歳時点の賃金額であり、右にいくにしたがい5,000円ずつ賃金額を下げた場合の手取額の変化を表しています。この表でいくと、右から3番目の時点で60歳時点の賃金額を追い抜いているのが分かります。

このような従来の典型的なグラフは、今後は期待できないということです。

手取額の変化(グラフ)

ここで勘違いしてはいけないのは、必ずしも「今後は賃金額の低下とともに手取額が低下する」というわけではない点です。

60歳時点の手取額を考えずに、単純に賃金額ごとに見ていくと、「賃金額が低いほうが手取額合計が多い」という意味での“プチ逆転現象”は、今後もよく見られる現象です。

<参考>
下のグラフは、改正後の低い支給率が適用される方についての、手取額シミュレーションのサンプルです。

上記のグラフと同じく、一番左が60歳時点の賃金額であり、右にいくにしたがい5,000円ずつ賃金額を下げた場合の手取り額の変化を表していますが、一番左の60歳時点での給与額を超える手取額を確保できる賃金額は見つかりません。

しかしながら、右にいくほど手取額が下がるなだらかなグラフになっているわけではない点に注意が必要です。手取額の変化を細かく見ていけば、従来通りイビツな曲線を描いており、途中で“プチ逆転現象”がおこっていることが分かります。

今後は、このようなグラフが典型的なものとなります。

手取額の変化(グラフ)

■まとめ

上記から、従来のような賃金額を半額近くに大幅ダウンしても手取額が変わらないといったケースは今後は期待できませんが、少しだけ賃金を下げても手取額は変わらないというケースは今後もよくおこる現象であるといえます。

今後60歳を迎える従業員については、手取額に変化がないことを材料に賃金の大幅ダウンを行なうことは不可能ですが、たとえば定年後の再雇用や再就職等で、賃金額が60歳時より下がることについて既に本人の納得が得られている場合は、従来通り、綿密な賃金シミュレーションが必要です。2つの公的給付を考慮せずに単純に人件費を配分すると、「給与額をもっと下げたほうが手取額合計が高かった」という失敗がおきる危険性があります。

したがって、今後も、従来通り、60歳〜65歳の従業員の賃金を決定する際には細心の注意が必要であるということができます。

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