社労士/社会保険労務士鈴木労務経営事務所(東京都新宿区)

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高齢者の賃金設計

■高齢者賃金設計について

高齢者の賃金設定60歳以上65歳未満の従業員を雇用している会社であれば、高齢者の賃金を工夫することで、人件費を大幅に削減できる可能性があります。

論より証拠ということで、まずは、下記の具体例を紹介します。

<具体例>
Aさんのデータ
60歳時点の賃金(月額):40万円
老齢厚生年金額(月額):20万円
年収850万円以下の配偶者アリ

賃金月額 40万円 25万円
賃金(額面)
400,000円
250,000円
控除額(社会保険料・所得税)合計
63,099円
37,205円
在職老齢年金額(加給年金含む)
0円
69,127円
高年齢雇用継続給付
0円
62,500円
本人手取額合計
336,901円
344,423円
会社負担額
452,998円
283,576円

(数字は平成15年4月現在のものを使用)

上記の数字をよく見てみると、賃金額が「40万円」の場合よりも「25万円」のほうが、本人手取額が多いことが分かります(なお、上記は計算間違いではありません)。

これを見て、「そんなバカな」「ウソに違いない」と思った方もいるでしょう。中には「いい加減なことをいうな!」と怒ってしまった方もいるかもしれません(実際に、これを提案した際に、社長さんにそう言われたことがあります(笑))。

しかながら、これは嘘ではありません。実際に、賃金を下げたほうが本人の手取額が多くなる場合があるのです。

■高齢者賃金と手取額の仕組み

何故こんな現象がこるのでしょうか?上記の各項目ごとに一つずつ説明します。

まず、賃金額が下がると、<社会保険料>と<所得税>といった控除額が下がるのは理解できるかと思います。

次の<在職老齢年金>ですが、これは60歳以降に働きながら年金を受給できるという制度で、給料が多くなるに従いカットされていきます(上記の例では、40万円の賃金を貰っている場合、給料が高すぎるということで全額カットされてしまっています)。

※ここが勘違いされる方が最も多い部分なのですが、この<在職老齢年金>は、「年金の繰上げ受給」とは全く別のものであり、この年金をいくら受給しようと、将来の年金には全く影響ありません(月額7万円近い年金を貰っている上記右のケースも、支給が全額停止されている上記左のケースも65歳以降の年金額は1円も変わりません)。つまり受給しなければ損な年金ともいえるものです。

その次の<高年齢雇用継続給付>は、60歳以降に賃金が下がった従業員に対してその一部を国が補填してくれるという雇用保険による制度です。上記の例では、60歳到達時の賃金が40万円ですので、それ以降の賃金が40万円のままである左のケースでは当然支給されませんが、25万円に下がった右のケースでは、月額で6万円以上も支給されています。

※上記の<在職老齢年金>と同様、この給付を受給したからといって、その後の雇用保険による給付には1円も影響ありません。これも、上記同様、受給しなければ損な給付ともいえます。

以上の仕組みにより、「賃金」と「在職老齢年金」と「高年齢雇用継続給付」の三者の合計手取り額が、賃金が下がったほうが多くなるという“逆転現象”がおこることがあるのです。

<参考>
「理屈は分かったけど、何故そんなことがおこるの?」と疑問に思った方もいるかもしれません。私も当初は何故こんなおかしなことがあるのかとても不思議でした。

これについては、結局のところ、国の行政組織がタテ割りであることに起因するのではと思われます。つまり、「在職老齢年金」については当時の厚生省、「高年齢雇用継続給付」については当時の労働省、とそれぞれ別々の機関で作られたものであるため、両方の制度を組み合わせた結果についてまでは政府が検討していなかったのではということが考えられます(厚生労働省として統合していますが、現在も、組織上は別の省庁ともいえます)。

「在職老齢年金」については、労働者の勤労意欲を阻害しないように、賃金が上がるにつれて賃金・年金の合計額が上がるように制定されています。「高年齢雇用継続給付」についても、あくまで下がった賃金の一部を補填してくれるものですので、賃金額が上がるにつれて、賃金・高年齢雇用継続給付の合計額が上がるように制定されています。したがって、それぞれの給付だけでは、“逆転現象”は絶対におこらないようになっています(ある意味、当たり前ですね)。

しかしながら、「在職老齢年金」と「高年齢雇用継続給付」の両制度を“組み合わせて”利用すると、上記の例のような現象がおきるケースがあるということです。

上記の例を見ると、賃金を25万円にしたケースでは、労働者の手取額合計が増えているにもかかわらず(月額で7,522円、年額で90,264円アップ!)、会社負担額は年額で200万円以上も減っていることが分かります(正確には、月額で169,422円、年額で2,033,064円ダウン!)。賃金が下がると、賃金負担額に加えて社会保険料の会社負担までも下がるためです。

仮に、60歳時にこの制度を導入していれば、この従業員1人だけで5年間で1千万円以上の人件費を削減できることになります。

■この制度の利用例

もちろん、会社の社会保険加入状況、各従業員の60歳時の賃金額と年金額等より、上記のような“逆転現象”がおこる賃金額が必ず存在するというわけではありません。

しかしながら、上記のように、従業員と会社双方にとって大きなメリットを生む可能性がある以上、60歳以上65歳未満の従業員を雇用している会社であれば、一度は活用を検討してみるべき制度であるといえるでしょう(以前、60歳以上の従業員が4人いる会社で、全員がこのタイプになったケースもあります)。

従業員のためを思い、会社が無理をして高額の賃金を払い続けた結果、かえって従業員の手取合計が少なくなってしまっているのは、あまりに悲しいことです。

なお、仮に“逆転現象”がおこらない場合でも、これらの制度を利用すれば、下がった賃金額ほどは従業員の手取額が下がらないのは間違いないので(政府からの補填分があるため)、人員整理を検討しているようなケースにおいては積極的に利用を検討するべきでしょう。

従業員側からみれば、手取額が多少下がったとしても、職を失うよりは遥かにマシですし、そもそも、それこそが国が期待するこの制度の利用法です。
※当然ながら、この制度は、決して高齢者の賃金額を抑えるためにできたものではありません。既述のように、政府は“逆転現象”がおこることなど考えておりません。政府としては、あくまで高齢者雇用の促進を期待して、それぞれの給付を制定しています。

弊事務所では、御社において、これらの制度を利用できるかどうかの診断を行なっております。賃金額と手取額合計をシミュレーションすることにより、「従業員の手取額が最も多くなる賃金額」や「従業員の手取額が今よりも下がらない範囲で最も低い賃金額」といったデータをピックアップすることが可能です。

■この制度を利用する際の注意点

上記の制度を利用して高齢者の賃金を設計するという提案は、すでに一部の社会保険労務士やコンサル会社が情報提供していますので、ご存知の方も多いかと思います。そこで、この制度を利用する時の注意点をいくつか挙げておきます。

[1] 対象従業員の同意
最も重要な労働条件である「賃金」に変更を加える以上、従業員本人の同意は絶対に必要です。その際、対象従業員へきちんと各制度の説明をすることはもちろんのこと、各従業員のプライドにも配慮する必要があります(長い間会社を支えてきた自負のあるこの年代の方には、手取額に変化が無いことを頭では理解できても、賃金額が下がるということに抵抗があるという方もいます)。

[2] 労働者の被りうる不利益
手取額合計が増えるような賃金設定であっても、「在職老齢年金」と「高年齢雇用継続給付」については、対象月から実際の支給(指定金融機関への振込)まで最大2ヶ月強のタイムラグが発生します。さらに、賃金低下(→平均標準報酬月額の低下)による将来的な年金額の低下、万が一従業員が大きなケガをした場合に支給される労災保険・健康保険からの給付の低下といった潜在的な不利益についてまで考慮する必要があります。

[3] 労働基準法等の問題
高年齢雇用継続給付の給付は、残業代込みの賃金額を基準に支給されるため、毎月の賃金額に変動がある場合、賃金設計シミュレーション通りにならない場合があります。
※それを考慮して、残業分をボーナスに上乗せして支給するよう安易に指導している機関もあるようですが、これは労働基準法の「賃金の毎月払いの原則」に完全に違犯していますので、後で労働基準監督署から残業代の支払命令があった際には、高年齢雇用継続給付にも影響が出て、かなりややこしいことになります。

[4] 制度変更の可能性
今後、社会保険各法の法改正により、各給付について変更が行なわれる可能性があるため、制度を導入した後も油断はできません。最近でも、凍結されていた年金額の物価スライドが解除され、高年齢雇用継続給付の支給率が平成15年5月より変更されています(施行日に既に受給資格を得ている従業員については65歳まで従前の率が適用される経過措置アリ)。さらに、平成16年4月からは、在職老齢年金の仕組が変更されることが確定しています。

※上記の法改正についての詳細は、下記ページをご参照下さい。

平成15年5月の雇用保険法改正について

平成16年4月の厚生年金保険法改正について

 

この制度は、「最適賃金額の算出」よりも「導入」が非常に難しいのが最大の特徴です。

最適賃金額を算出するまでは、パソコンソフトで処理すれば誰でも簡単にできます。しかしながら、それだけでは“絵に書いた餅”に過ぎません。上記でざっと挙げただけでも分かるように、この制度には「落とし穴」が複数存在するため、労働基準法・労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金保険の各法に精通していなければ、実際に導入するのは難しいといえるでしょう。

経験の乏しい社会保険労務士や、ましてや労働基準法や社会保険各法の知識に乏しいコンサルタントが、安易に「高齢者の賃金設計」を呼びかけているケースも時折見受けられますが、その点だけは注意が必要です。

(最悪な例では、従業員に国民年金の「一部繰上げ」を推奨して、この制度を利用させたケースもあるようです・・・。一部繰上げを使えば60〜65歳の期間に関しては年金額が増えますので、賃金設計はやり易くなりますが、65歳以降の年金は一生下がったままです。こんなことをすれば、将来的にその従業員から苦情が出ることは必至です)。

この制度を導入する際は、必ず制度の導入に精通した社会保険労務士にご相談されることをお奨めします。

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